ヴェルサイユの梨

ヴェルサイユの梨

投稿日:2011年08月19日
フランスきっての観光地、ヴェルサイユ宮殿は、パリからの小旅行にもふさわしく、特にこのバカンス時季には世界中から夥しい数の人々がフランス王政の夢の跡を目指してやってきます。
広大な敷地と豪華絢爛な設えから、太陽王ルイ14世の富と権力のほどをこれでもか!と体感することができますが、宮殿前の広場から程近いところに、王を取り巻く宮廷生活の営みを垣間見られる、秘かな名所があります。

その名も「王の菜園」Potager du Roi。
ルイ14世がサンジェルマン・アン・レイからヴェルサイユに住まいを移した際、王に通年にわたって新鮮な野菜や果物、そして香草を供するために5年の歳月をかけて造られました。
1690年当時、使用人をふくめ、宮殿にかかわる人々約500人分の食事を賄うために150種以上の作物があったと言われています。

高い塀の中にひっそりと佇むこの菜園は、地表よりも3mも深く掘り下げられていて、まるでフランス式庭園のような畑が整然と広がっていますが、これは風を防ぎ、
塀からの輻射熱で園内を保温するための知恵だそうで、
これを設計、指揮した農学者、ラ・カンティニーに敬服します。(ちなみに、このカンティニーの剪定ナイフを持った雄姿がブロンズ像となって菜園を見守っています。)

ここの名物は、60種も植えられている梨で、
種類別に並んだ木が枝を矯正されて、平均に陽に当たるよう平面状に行儀良く整列しています。
お世話をしているのは、国立高等農業学校の生徒さんたちで、造園当時からの歴史を継承しながら、新しい技術を磨いています。
そのおかげで、果実の成長にばらつきはなく、大変美しくのびのびとした品格を備えた梨が実り、現在でも高級食料品店に出荷されているそうです。

世界遺産ヴェルサイユ宮殿で繰り広げられた華麗な時代を生きた太陽王ルイ14世は、しばしばこの菜園を愉しみに訪れたといいます。
彼の食にこめる情熱、美学が、ひいてはフランス料理そのものを無形文化遺産にまで昇華させる礎となったことを感じつつ、別名大食王ルイ14世が、実は野菜と果物大好きの健康志向だったことに、思わず親近感を覚えてしまう私です。










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