麝香菩提樹

麝香菩提樹

投稿日:2010年07月29日
日本もお暑い毎日かと思いますが、皆様お元気でしょうか。フランスも強い夏の紫外線が痛い季節ですが、私は専ら菩提樹の木陰を歩いてクールダウンしつつ、この欧州の街路樹として馴染み深い植物について、改めて掘り下げてみたくなりました。

シューベルトの歌曲でも有名な「菩提樹」は、フランスでは「Tilleul」(ティユール)と呼ばれ、多くのレストランやカフェでもティザンヌ(ハーブティー)として提供される大変ポピュラーな薬草です。そのなかで、特に芳香が強く、「麝香菩提樹 Tilleul Muscat」として名高い最高品質のTilleulを求めて、南仏プロヴァンス地方、Buis les baronniesを訪れました。

Buis les baronniesは、その日当たりの良さと乾燥した気候ゆえ、中世の昔から、芳香油を多く含む薫り高いTilleulが生産される土地として知られ、19世紀には、ナポレオン一世により、ペンテコステ(聖霊降臨の主日)、7月、クリスマスの年三回、Tilleul市が開催されていました。
近代薬の台頭により、需要が低下したものの、現在でもその流れを汲み、7月には生産者が収穫した花と苞を大きな麻布で包んだものを持ち込み、天秤での計量等、中世さながらの風景のなか、世界中から薬種商が集まり、取引が行われています。

Tilleulの木は、単独あるいは小さなグループで成長し、花をつけるようになるまでに6〜10年の年月を要します。平均して1本の木から40kgの生花、乾燥品として約10kgを得ることができるといいますが、7月の約一週間の開花時期に行われる花と苞の収穫は、木にはしごをかけて行う手作業で、一本につき10時間以上を費やす重労働で、男性が高所の摘み取りを、女性が苞のついた枝を切るという家内作業が基本のようです。

ちなみに、Tilleulは学名をTilia europaeaといい、
シナノキ科の堂々たる木です。
葉は表面が深緑色、裏面が淡緑色、先細で基部はハート形、すばらしい香りを持つ花は4〜10のグループで、集散花序につき、垂れ下がり、黄白色。
花の長い柄には薄緑色の大きな苞葉があり、この部分も利用されます。

成分として、揮発性精油、サポニン、ビオフラボノイド、縮合タンニンを含むため、穏やかな鎮静効果があり、遠い記憶を呼び覚ますような甘い香りが精神安定、安眠をもたらすと言われています。フランスでは、特に、興奮しやすく、落ち着きのない子供にも処方されることもあります。更に、フラボノイドの血管壁への効果が血圧低下、動脈硬化予防につながるとされています。
使用法としては、ティザンヌ(ハーブティー)として安全に飲用されており、
実は、私のブランド、Satoko-Arakawaの008「おやすみ前に」にもブレンドされています。

この山間のBaronniesの村の民家の軒先には、決まって
Tilleulの大木が、ハート形の葉を優しく揺らし、甘い香りを放って、その下で語らう家族や友人たちを見守っています。目覚しい成長と、規則的な開花が忠誠や貞操を表し、夫婦愛と友情のシンボル・ツリーとも言われる
Tilleulの力は、それが持つ薬効以上に人々を癒し、心を安定させるようが気がします。
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